「高橋 秀 銅版画」展
 絵画作品(立体イメージ作品も含めて)の制作は、私の場合、先づ全く自由気儘な、大量の落書き(?)デッサンにはじまります。それは、その折々、己の中に沈潜して居るもの、ふつふつ湧き上がってくるものなどなど様々なまだ何の姿も型も持って居ない以前のかすかな意識かの記憶を掘り起こし、見つけ出す作業と言えます。
 この無数の落書きたちは、2〜3ヶ月、或いは半年一年と放り出され、思い出したように折々に選別取捨され、二度三度の製図作業を経て、タブロー制作の下絵となります。
 ここ数年、そんな落書きにまじって、和紙に筆の、気儘な書道(?)デッサンなるものが加わって居ります。
 この和紙に筆でのデッサンを、友人であり仕事相手である2RC工房のオーナーそしてエディターでもあるRossi氏が見つけて、アクアチントの技法で版にして見たいと言い出し、2RCの日本特約画廊であるM.ギャラリーからの申し出もあって、共同エディションの形で発表されることになったのが今回の版画群と言うわけです。
ほとんど霜状と言っていい程の樹脂を定着させた大ぶりの銅版に、たっぷり腐蝕液を含ませた太めの和筆を、少しばかりの緊張も含めてズブリじかに走らせるのは気分のいいものでした。
 Rossi氏の技法に対するアイデア、刷士達の版効果を睨んでの製版協力は、充分心地よい作業であったと言えます。

高橋 秀
ローマ、1987年10月

「高橋 秀 銅版画」展
(2RCローマ/M.ギャラリー)図録より